2009年3月25日水曜日

:グーグルとビッグ・ブラザー


● 2006/04




 インターネット世界に詳しい人はみな知るように、グーグルは、グーグルを利用する人々の検索活動をすべてデータとして残し、そのデータの解析から得られるあらゆる情報をそのデータが欲しい人に売るというユニークな情報産業として生きているのだ。
 もちろん個人情報そのものを売ることは個人情報保護法で禁止されているからできないが、グーグルに残るデータを解析することで得られる、二次情報、三次情報などの加工データは売ることができるし、実は情報としての商品価値がより高い。
 
 インターネットに入ってきた人間がまずやることは、検索エンジンを使って、自分の知りたい情報がどのサイトにあるかを調べることである。
 サイトのリストが出てきてから、その人はどこかをクリックして、どこかのサイトに行く。
 その記録がグーグル側にみな残る。
 その人が情報検索をやめるまでの全行動の記録が残る。
 それを解析していくと、あらゆる消費者の消費行動のパターンがわかってくる。

 それを商売に利用しようと思うと、あらゆる可能性が開けてくる。
 そういう情報を手に入れると、ある商品を売るためには、どういう階層のどういう行動パターンを持った人々に働きかけるのがいちばん効果的かわかるから、最も効率のよいセールスができる。

 グーグルがこの商売を続けていくためには、すべての検索記録をひたすら溜め込み、それをデータベースとして、あらゆる解析手法を駆使して、そのデータの海の中で何度も何度も再検索、再々検索をしていく。
 そうすることで、マーケテイング手法など、いろいろな仮説を立ててはそれが正しいかどうか検証していくことができる。

 情報検索ビジネスは成功すればするほど、それらを収容する膨大な「物理空間」を必要とする。
 グーグルがどんどん溜め込んで利用する情報はほとんど天文学的な量になりつつある。
 世界の情報拠点となっている大都市には、グーグルの巨大サーバーとメモリーストレージを大きなビル丸ごとパイルアップした、「グーグル・タワー」と呼ばれるものが幾つもあり、それがどんどん増殖中なのだという話をコンピュータ業界の人から聞いた。

 最近、グーグルの商売で、もう一つ新しい事実を知った。
 グーグルのサービスの一つに、「Gmail」というメール・サービスがある。
 このメールを使うと、メールに書く一行一行が即座に自動解析され、そこに書いたことに関係がある広告がすぐそばに出てくるのだという。
 この話を聞いて、さっそく実験してみた。
 「最近、パソコンをそろそろ買い換えようかと思っている」と一行書いたら、なるほど即座にパソコンの広告がそこに出現してきた。
 このような仕組みは、メールが全部検閲されているようで、「気味が悪い」「イヤダ」という人もいるだろうが、「これは便利だ」という人もいるだろう。
 検索エンジンが長年かけて開発してきた。超高速の情報処理能力と、文章解析能力を組み合わせるとこういうことはいとも簡単にできるのである。
 グーグルはこういうことを利用者に隠して密やかにやっているわけではなくて、ちゃんと、「こういうことをやっているから広告が出てきます」と宣言してうえでやっている。
 そうなると、合意の上の行為になるから、グーグルを非難することもできない。
 それにコンピュータが自動解析ソフトでやっていることだから、いま現在はそれほど気味が悪いことがなされているというわけでもない。

 最近、グーグルが中国に進出して、中国政府の要望に従って、グーグルの検索技術を国民監視と、国家がよくないと判断する情報に、国民がアクセスできないようにするために、使用しはじめたことが明るみに出た。
 それがいまアメリカで大問題になっているのは、まさにこの、IT技術を利用した「ビッグ・ブラザー監視社会」作りが、始まったことに対する反発のゆえである。

 さらに、こういう技術がどんどん発達していくと、この先、今後はどういう技術が生まれてきて、自分の知らないうちに、コンピュータが自動的にやってしまうことが、個々人の生活の中にどれほど入ってくるのだろうと、もっと大きな予測不可能な気味の悪さを感じることがある。


 朝日新聞の北京特派員は、日本のメデイアが連日大々的に報道した反日デモについて、中国の新聞もテレビもニュースとしてはまるで伝えていなかったので、中国人からは「反日デモというのは本当ですか?」とたびたび聞かれたとのだという。
 中国のような社会では、マスメデイアが何を伝え、何を伝えないかはの一線は、政府当局者によって引かれてしまう。

 中国ではインターネットがある時期まで、国家のメデイア管理体制に大きな穴を開けていた。
 最近の「ニューヨーク・タイムズ」紙は、中国のインターネット事情の現実は、その逆の方向に向かっているのだという。
 それによると、中国のインターネット網を流れる大量の情報が、常時多数の係官によって厳重に監視されていて、政府が不都合と考える情報は、複数のスーパーコンピュータを用いた精緻な複合フィルター装置によって、個々の単語、センテンスまで検出され、トレースされてしまうのである。
 個人のメールであろうと何であろうと、少しでも不都合な内容が発見されると、容赦なくすぐに削除されてしまうのだという。
 まさに、ジョージ・オーウェルの「1984年」にあったような、ビッグ・ブラザーによる監視社会の電子版が、そのまま実現したような感じの社会になってしまっているわけだ。




 ということは、テロ攻撃の一つに「グーグル・タワー」がカウントされているということになる。



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