2009年3月30日月曜日

:プロローグ


● 1992/10[1992/09]



 これから四半世紀に、世界経済は黄金時代を迎えるだろう。
 貧富を問わず、ほとんどの国が、これまでにないほど早いペースで高い成長率を達成するにちがいない。
 共産主義は崩壊して、東ヨーロッパの広大な地域が解き放たれ、旧ソビエトは資本主義路線に活路を見出そうとしてやっきになっている。
 第三世界とラテンアメリカは、制約だらけの古い経済体制から脱却し、開かれた市場に目を向けて急成長をとげようとしている。
 また、コンピュータやバイオテクノロジーの新しい技術が本当の意味で経済の成長と生産性に影響を及ぼすようになるのは、まだこれからのことだ。
 以上は世界の長期的な展望である。

 しかし、、現在から数年間の展望は、これほど明るいものではない。
 豊かだった工業国の景気は後退し、銀行をはじめとして多くの企業が強気一辺倒だった1980年代後半の債務にあえぎ、泥沼にはまりこんでいる。
 とはいえ、これも過渡期の現象に過ぎない。
 暗雲が垂れ込めているのもせいぜい数年のことで、それ以上続くと考える理由はないのだ。
 大切なのは、暗い状況がつづいているときに世界が共通の認識をもつことである。
 つまり、来るべき新しい時代には、危機やさまざまな問題をはるかに上回るような機会が活用できるということを認識するのである。
 重大な過ちをおかしたり、予測できない障害が出現したりしない限り、10年後には世界はかってない繁栄の時代を迎えるだろう。

 日本に目を転じると、いくつかの疑問がわきあがってくる。
 なかでも最大の疑問は、次ぎのようなものだろう。
 ”日本は世界経済の過渡期をどうやって乗り切るのか”
 ”やがて来る黄金時代に、日本はどんな位置を占めることになるのだろうか”
 この疑問が大きな意味を持つ背景には、互いに関連する「二つの理由」がある。

 
まず、日本はいま幸福の絶頂期を過ぎて、「憂鬱な時代」に入っている。
 1980年代の後半に日本の経済力は驚くほど強くなったが、この成長の火に油を注いだのが金融資産の膨張、いわゆるバブル経済だった。
 日本という太陽は永遠に昇りつづける、日本という特別な国に不可能はないという意識が生まれた。
 この尊大で傲慢な態度は、最後には不幸を招く。
 1990年1月から日は沈みはじめた。
 その影響が本格的にあらわれるようになったのは、1992年に入ってからのことである。

 日本が迎えた夜も、そう長くつづかない。
 ひとたび夜が明けたなら、日本も新しい繁栄の時代を享受する一員になることだろう。
 日本の行動や振る舞いが重要な意味をもつ
もう一つの理由は、ここにある。
 日本はいまや否も応もなく「
国際的」になっている。
 世界経済のさまざまな流れが、東京や大阪にそのまま押し寄せ、どこにでもいる普通の日本人を動かしているのである。

 日本という太陽はしばし水平線の下に沈みはしたものの、ますます国際的な方向をめざしてしっかりと足場を固めつつある。
 日本が置かれている内外の状況を分析して、明日の日本の姿をさぐろうと試みたのが本書である。
 本書はまず、日本という島国が急速にここまで成長した経緯を説明する。
 多くの日本人はまだ自分たちを国際的だとは思っていない。
 ほとんどの外国人も、日本人を国際的だとは考えていないだろう。
 しかし、日本人について「考えざるを得ない」外国人は確実に増えており、彼らの考え方は日本人にはなかなか理解しがたい。

 経済学は人間の顔の見えない学問であり、個々の人間や企業ではなく、常に統計を対象とする。
 言葉をかえれば、一本一本の樹木ではなく、森全体をみようとする。
 日本の未来を探る重要な手がかりは、企業という木から得られることが多い。
 世界という舞台で成功をおさめるにはどうすればいいのか、どんなやりかただと失敗するのか、それれを知るには、企業はまたとない試金石となっている。

 当面は、日本の多国籍企業は国内の不況のあおりを受けるだろう。
 多くの企業は、過剰な自信につき動かされて海外に進出拠点を設けた。
 それは経営面でも資金面でも多大な負担を要求し、しかも短い期間に成果をあげられる規模をはるかに超えていた。
 1990年後半には、多国籍企業の多くが投資の手の広げすぎを習性していくはずである。
 しかし、それまでの数年間、企業は重荷に苦しまなければならないdろう。

 日本の知識人が共通して発する問いのなかに、
 「日本が世界で果たす役割とは何か?」
 というものがある。
 この問いは適切なものとはいえない。
 なぜならば、どんな答えも不完全だからである。

 過去のお祭り騒ぎはどこへやら、いまの日本はさまざまな不安を抱えている。
 ということは、世界全体も不安だということである。
 とはいえ、日本と世界には眩しいくらいの未来が約束されている。
 その約束を、いかにして現実のものにするか、ということである。










 Wikipediaより

 ビル・エモット(Bill Emmott)
 1980年エコノミスト社に入社
 ベルギーのブリュッセル、ロンドンで記者を務めた後、1983年から3年間東京支局長(日本・韓国担当。
 1993年に同誌編集長。
 2006年3月まで13年間務めた後は編集者を引退し、国際ジャーナリストとして活躍中。

 1990年の著書『日はまた沈む』は、日本のバブル崩壊を予測し、ベストセラーとなった。

 また2006年の『日はまた昇る』では、日本経済の復活を予測した。

●「日はまた沈む ジャパン・パワーの限界」(鈴木主税/訳、草思社、1990年3月)
●「来るべき黄金時代 日本復活への条件」(鈴木主税/訳、草思社、1992年9月)
●「官僚の大罪」(鈴木主税/訳 草思社、1996年6月)
●「20世紀の教訓から21世紀が見えてくる」(鈴木主税/訳、草思社、2003年7月)
●「日はまた昇る 日本のこれからの15年」(吉田利子/訳、草思社、2006年2月)
●「これから10年、新黄金時代の日本」(烏賀陽正弘/訳、PHP研究所、2006年10月)




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