2009年3月29日日曜日

来るべき黄金時代:ビル・エモット


● 1992/10[1992/09]



訳者あとがき

 本書の著者、ビル・エモットの前著「日はまた沈む」は1990年3月に刊行された。
 その内容は、日本の社会と経済が1980年代から90年代にかけて経験している長期的な変化を跡付けたものだった。
 すなわち日本が、生産より消費、勤労より快楽追求、貯蓄より支出に傾く国に変わっていきつついあるということである。
 また、出生率の低下と医療の進歩によってもたらされる逆ピラミッド型の人口構成をもつ高齢化社会への移行がある。
 さらに、もっとも重要なこととして、日本のバブル経済の形成とその崩壊を予想していたことは、同書の重要なポイントであった。

 その「日はまた沈む」のタイプ原稿を初めて手にしたのは、1989年夏のことであった。
 それは日経平均株価が右上がりに上昇し、毎月のように最高値を更新していた当時であり、好景気が続いて、戦後最長のいざなぎ景気を追い抜くことは必至だと考えられていたときである。
 そんなおりに日本経済のバブル現象を鋭く指摘したものだから、反響は大きかった。
 同書はひじょうに多くの読者を得てベストセラーのリストに顔をのぞかせるとともに、ジャーナリズムの大きな話題となった。

 一冊の本を書き上げるには少なくとも一年くらいの時間はかかる。
 さらに「日はまた沈む」を読んでいただいた方はご承知のことと思うが「日はまた沈む」は1988年に「アメリカンエキスプレス・バンク・レビュー」誌の経済エッセイ・コンテストで最優秀賞を獲得した論文を土台として書かれたものであった。。
 つまり、同書は日経平均株価が最高値をつける2年以上も前に構想され、書き進められていた、ということである。
 経済予測がエコノミストの重要な仕事だとしたら、「日はまた沈む」はビル・エモットのエコノミストとしてのクレデンシャルを申し分なく裏付けるすぐれた業績だといってもいいだろう。

 そして、本書はビル・エモットの「日はまた沈む」につづく第二作である。

 内容はごらんのとおり、世界経済に新しい黄金時代が到来すると予想されるこれからの四半世紀に、日本がどういう位置を占めるかという疑問をテーマにしている。
 いきなり「世界経済の黄金時代」などといわれると、いまの日本の状況が状況だけに、また世界の現状が現状だけに、いささかたじろいでしまうが、なぜ黄金時代なのかということについては本書によって読者が自ら確認していただきたいと思う。

 ビル・エモットは「日はまた沈む」の日本語版序文に、
 「
日本にはいつも世界中が驚かされている
 と書いているが、その「日はまた沈む」の「バブル経済」といい、本書で指摘している「世界経済の黄金時代」といい、驚かされるのはむしろ日本の読者のほうではないだろうか。

 ともあれ、「日はまら沈む」と本書に共通した一つのキーワードが、通奏低音のように鳴り響いている。
 それは「国際化」ということである。
 国際化こそは、日本が世界経済の黄金時代にゆるぎない地位を占めるための重要なファクターなのだが、その国際化の尖兵として、著者は本書で日本の多国籍企業に焦点を当てている。

 翻訳書の訳者あとがきには、原著の書名、著者名、原著の刊行年度などを記すのが通例のようだが、本書の場合、原著にあたるものはまだ出版されていない。
 本書とほぼ同じテーマのイギリス版はこの日本語版とあい前後して刊行されるそうだが、タイトルが同じものになるかどうかはわからない(仮題は Japan Global Reach、出版社は Century Business Books)。

 本書の表題(注:Tomorrow's Japan :明日の日本)は、著者と草思社編集部が協議して決定したものだということをお断りしておきたい。
 つまり、本書はある意味で日本の読者のために書き下ろされた本だといえるのである。

 1992年9月 鈴木主税








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