2009年11月16日月曜日
メダカと飛んだ15日:スペースシャトル:向井千秋
● 1994/10[1994/09]
『
スペースシャトルは、飛行士が乗り組む大きな翼のついたオービター(機体)と、巨大な燃料タンク、左右2つの固体補助ロケットから構成される。
直径約8.5メートル、高さ47.1メートルの巨大な赤色の燃料タンクにとりつけられた白と黒のオービターは、まるで巨木にセミがとまっているかのように見える。
ロケットのように垂直に打ち上げたあと、約2分後に左右2つの固体補助ロケットを切り離す。
約9分後に外部燃料タンクを使い切って分離し、オービターだけで宇宙飛行を続ける。
地球への帰還は推進装置を使わずに、翼だけでグライダーのように地球に降りてくる。
打ち上げ時と帰還時に身につけるオレンジの「フライトスーツ」にも工夫が凝らされている。
重量が35kgと重いうえに、びっしょりと汗をかくほど暑いので、お世辞にも着心地が良いとは言えない。
このスーツにはパラシュートからトランシーバー、救命ボート、電池、飲料水など緊急脱出後に必要なさばいばる7つ道具がとりつけられている。
PS(搭乗科学技術者)としての訓練は、ジョンソンウチュウセンターから千キロほど離れたアラバマ州のマーシャル宇宙飛行センターで行う。
珍しいのは船内テレビカメラの操作や写真撮影訓練である。
巨費を使って宇宙開発だけに映像として多くの国民に伝えるのが目的だが、歴史作りの好きなアメリカ国民の記録主義の表れでもある。
着陸訓練はカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で実施する。
ヒューストンを本拠地に、各地のNASA施設を回って、宇宙飛行士のになるためのノウハウを着実に身につけていく。
千秋は特に訓欄マニュアルに感動した。
自動車学校の講義とよく似ており、1つのステップを終了すれば次のステップへと移る。
できなければ何度でもおなじことを繰り返してマスターさせる。
インストラクターも十分訓練されていて、誰が担当しても同じことを的確に説明してくれる。
例えば、スペースシャトルから緊急脱出して海上にパラシュートで緊急着陸する「ウオーターサバイバル」訓練もそうだ。
海上に放り出されれるのはだれでも恐怖を感じる。
だからNASAの訓練では、最初はボートの上から海に飛び込み、徐々に難度を上げる方法をとる。
救急車も大気していて、飛行士に何かあれば、すぐ病院に運べるようになっている。
訓練の97%は不要だといわれている。
それは考えられる最悪の状態を想定して作ったからだ。
「
カリキラムとシステムがよくできているのです。
一歩一歩訓練をしゅうとくしていくと、いつの間にか目の前に宇宙への旅立ちの日が待っているとのシナリオ構成には本当に驚きました
」
膨大なマニュアル、きめの細かい訓練方式を作り上げたスタッフのクロウの大きさに、千秋はアメリカの宇宙開発の奥深さを見た。
ジョンソン宇宙センターの巨大な施設には確かに圧倒される。
だが施設を造るだけではなく、それを間違いなく何年も維持・運営していくスタッフの力にもかんしんしたのだった。
日本の宇宙開発はロケットや人工衛星などの、形に現れるものには予算を出す。
だが、スタッフの実地教育などのソフトト面の充実の投資は余りにも少なすぎた。
日本の有人宇宙開発の体制作りが、アメリカと比べてまだ序の口にも達していないことを痛感したのもこの時だった。
「
例えイヌ一匹といえど、宇宙に送り出すには全般的なシステム作りが必要です。
それすらやっていないということは、残念ながら何も出来ない、ということになるのです
」
』
【忘れぬように、書きとめて:: 2009目次】
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