2009年2月19日木曜日

:サイズが肝心


● 2001/02  草思社



 アメリカと西欧諸国のの大半では、「美しさ」はほっそりとしなやかで、バレリーナのように華奢で「自己抑制的」であることを意味している。
 ちまたに食糧があふれ、食の誘惑にとりまかれた環境の中で、最高のギャラを獲得するモデルは、身長180センチ、体重50キロという女性たち。
 その姿に羨望のまなざしを向けるのは慎重162センチ、体重64.5キロの平均的女性たちだ。

 肥満度は「ボデイーマス指数」で計算されることが多い。
 体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値である。

 ボデイーマス指数=体重(kg)/{身長(m)×身長(m)}

 アメリカ政府はこの指数を「25以下」にたもつことを人びとに奨励している。
 つまり、身長162cmの女性の体重は66kg以下であればよいことになる。
 体重をけずるのはひと苦労だ。
 アメリカ人は年間総額400億ドルをつぎこみながらも、平均体重は増えつづけている。
 アメリカ人のエクササイズに使う時間は一日平均「16分」。
 アメリカ人の24%は、毎日じっと座ったきりで動かずにすごしている。

 ベッドに寝たきりという人が、体力を適正にたもち体内の静かな活動(細胞組織代謝など)をつづけるために必要とする熱量は「1,400---1,600カロリー」。

 活発に動き回る人でも「2,000カロリー」以上は必要としない。
 
 摂取される食物が多すぎ、消費されるエネルギーが少なすぎる状況では、ウエストラインが太くなるのも当然である。

 私たちは、旱魃、洪水、地震、動植物の欠乏が周期的に飢餓状態を引き起こす世界に適応してきた。
 現在でもなを、低開発諸国の半数近くが少なくとも一回食糧難に襲われ、その1/3が深刻な飢饉に見舞われる。
 食べられるとき思いきり食べ、体は脂肪をたくわえ、食糧不足に対応して代謝のメカニズムを調整しいぇ、栄養分を効率よく活かそうとする。
 わたしたちが肥満体になったのも、不思議はない。

 「国王ひとりが食糧や労働力を統制し、十分食べて肉体労働はせず、太ることができる状況」のなかでは、太っていることが優位のあかしになる。
 やせた人は貧しくて栄養がとれず、肉体労働に追われて体重が増やせないからだ。
 かたや「貧しい人が太る社会」(健康にいい高価な食品は買えず、安く手に入るジャンクフードを食べ、その危険性に無知である)では、優位の象徴は「やせた人」であり、ダイエットやエクササイズになる。

 進化の中で、やせた体形が理想とされた先例はない。
 じつのところ、淘汰ではその逆が選択されたはずだ。
 摂食障害では生殖能力や繁殖能力がさまたげられる。
 飢えた動物は繁殖をおこなわず、交尾さえしない。
 生殖能力を閉ざすのは、体が適応の安全弁を閉じるようなものだ。

 しかし最近、科学者たちは食物を制限された動物のほうが長生きをすることを発見した(30%寿命が延びる)。
 長く生きると同時に、生殖能力は食糧が豊かになって繁殖が可能になるまでの間、活動を停止する(食物を制限された中年のマウスの卵巣は、普通よりユックリ年をとっていく)という。

 実際に何人かの心理学者は、食事を抑える女性は、無意識に繁殖を制限しているのではないかと指摘している。






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