● 2001/02 草思社
『
人がなにを、なぜに美しいと感じるのか。
改めて考えるのはむずかしい。
植物や動物のあざやかな色あいや微妙な姿形、空や海や、太陽や月を美しいと感じるのは世界共通で、よほどのひねくれ者でないかぎり、誰もが美しいと共感するのではないかと思う。
しかし、「美しい人」はとなると、万人が認める美人や美男子はごくかぎられてくる。
しかも、その美しさの定義はあいまいだ。
本書の中で、あるテレビ・プロジューサーは、人の美しさとはどんなものかと問われて、「言葉にはできないが、それが部屋に入ってくればすぐにわかる」と言っている。
たしかに、美しい人を目の前にすれば美しいと感じても、言葉では「なぜ」「どこが」と、なかなか説明はできない。
その難問にできるかぎり科学的・客観的な答えを見いだそうとしているのが本書である。
著者のナンシー・エトコフは、脳や認識力にかんする自らの研究をふくめ、進化生物学、心理学、人類学などの最も新しい調査や研究、美術史家たちの証言、あるいは歴史上の人物たちのエピソードなどをふんだんにまじえて、美という謎を解き明かそうとしている。
その基本になっているのが、人間をふくむ生物が進化してきた過程で、生殖能力が高く健康で、種の存続にもっとも適した姿形を美しいと感じる感覚が選択され、遺伝子の中に組み込まれてきたという考え方である。
------「美しい」とされるこうした要素は、いずれも健康、強さ、生殖能力の高さ、健康な子供を作る可能性を伝えるのだとしている。
美人薄命といわれるが、じつは「美人は長命」だったというわけだ。
本書の原題が
「Survival of the Prettiest-The Science of Beauty(美しいものは生き残る-美の科学)」
となっているのも、そのためだろう。
この本では、美はたんに人が社会の中で学習して身につける感覚ではなく、進化の過程で生存のために選択されたきた感覚であるという基本をもとに、さまざま興味深い問題がとりあげられている。
美を必死で追いかけるために起きてくるさまざまな障害(拒食症や過食症、美容整形の弊害など)から、ファッションの歴史にいたるまで、美にかんすることがらが網羅され、まさに美のアンソロジーというべき本である。
著者のナンシー・エトコフは、現在ハーバード医科大学で教え、心理学者としてマサッチューセッツ総合病院で患者の治療にもあたっている。
この本を書くにあたって、「美」をテーマにあらゆる分野から膨大な資料を集め、たんねんに調べあげ、できるだけ公平に整理しまとめあげた著者の力量には、感嘆のほかない。
また文章にはたくまざるユーモアがあり、科学的なことがらにもできるだけわかりやすく説明がなされている。
スーパーモデルのシンデイ・クロフォードは「私は「遺伝子フリーク」とは呼ばれたくないけど、ナンシー・エトコフの本はすごく面白くて、わかりやすい。こうだと頭から決めつけることなく、美とはどんなものかを探っている点にも好感がもてる」と賛辞を寄せている。
2000年10月 訳者
』
面白い本です。
抜書きしておきたい知識が満載されている。
題名はミーハーだが学問書研究書である。
「ひとはなぜ、美しさにこだわるのか」といった風な題名の方がよかったのでは。
あるいは「人間にとって、美しさとはなにか」。
この本の題名「なぜ美人ばかりが得をするのか」では女性が読まないのでは。
そういう研究内容も含まれているのに。
もったいない。
【忘れぬように、書きとめて:: 2009目次】
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