2009年6月2日火曜日

:馬に乗ろう


● 1980/12



 馬にのろう、おれたちが乗らずして誰が乗る、と私は言い続けてきた。
 馬という素晴らしい動物をこの世から消さぬためには、人が乗れねばならぬ。
 馬ときちんと結ばれ合っていれば、馬は生きる。
 規則というのは嫌いだけれど、「乗馬の出来ぬものは去れ」とまで強制力のある法律をつくりたかったほどである。
 全員が乗れるようになってくれたものの、わたしはまだ不満である。
 素人ではいけない。
 全員がプロとして、馬を乗りまわすようであって欲しいっといつでも願っている。

 何が好きと言って、深い新雪の中で馬に乗るほど私の好きなものはない。
 原稿を急いで書いて、町まで届けに行く。
 はじめ、馬はしぶる。
 私も、馬に申しわけない気がして引き返そうかな、などと考える。
 そのうち、何かに火がつく。
 この野郎、乗り切るのだ、行くぞ町まで---と闘志のかたまりになる。
 馬にもそれが伝わる。
 雪は馬の腹まである。
 馬は首を雪の中に突っ込んで前をかためる。
 それから後脚で蹴って前進する。
 一歩毎の、馬と人が魂を一つにしたラッセルである。
 家にたどりつくと、しばらく馬は甘え、私を離そうとしんじゃい。
 それもまた嬉しいのである。











 シマウマが迷いこんだので、犬や馬と一緒に飼っているのは以前に報告した。
 「冬が大丈夫かなあ、熱帯の生きものだから」
 たくさんの人が心配した。
 しかし、風太と名づけたわがシマウマは元気であった。
 むしろ他の動物より雪が好きで、体がすっぽり埋まっても、かきわけかきわけ走りまわった。
 シバレのきつい日はさすがにこたえるようで、ふるえがとまらなかった。
 そんな日には、馬房に入れ、暖かくしてやった。 
 風太をみているうちに、私は野望を抱いた。
 これまで、世界中の人がトライして、「シマウマに乗ることに失敗している」のだ。
 私は乗ってみようと思った。














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