2009年6月20日土曜日

:日本刀の秘密


● 2008/06



 鋼鉄は鋼(こう、はがね)ともいいます。
 炭素含有量が2%以下となっています。
 鋼鉄の性質、特に硬度は炭素含有量によって微妙に変化します。



 日本の鋼づくりは、おもに島根県の近辺で発達しました。
 鋼の原料になる上質の砂鉄が手に入ったこと、再生可能な森林に恵まれていたこと、技術者集団を結成するだけの基礎技術があったことなど、いろいろな要因が重なってのことでしょう。

◆踏鞴製鉄
 日本の製鉄技術は「踏鞴製鉄(たたらせいてつ)」といわれます。
 踏鞴とは炉に送る風を出す鞴(ふいご)の一種で、足で踏んで風を送るものです。
 踏鞴製鉄では、炉に鉄鉱石と木炭を入れて木炭に火をつけ、鞴で風を送って一酸化炭素を発生させ、それで鉄鉱石を還元して銑鉄を得ていました。
 このようにしてつくった鉄を「和鉄」、あるいは「和銑(わずく)」といいます。

たたら吹き
 踏鞴製鉄と似た言葉ですが、こちらは鉄鉱石から直接に鋼を取り出す方法であり、高度な技術を要する製鋼法です。
 炉に木炭と鉄鉱石を交互に詰め、一酸化炭素で還元する基本原理はどこも同じですが、温度管理に微妙な経験を要し、技術者集団は三日三晩の徹夜を要するそうです。
このようにしてつくった鋼を「玉鋼(たまがね)」といいます。



 日本刀は包丁やナイフと同じ刃物ですが、その構造はだいぶちがいます。
 武器としての刀に要求されることは、よく切れて、折れないこと、です。
 切れ味をよくするためには硬くなければなりません。
 が、硬い脆くて折れやすくなります。
 日本刀は重層構造にすることで、このパラドックスを解決したのです。

 すなわち、やわらかくて折れにくい鋼を、硬い鋼で包んだのです。
 刃の部分は硬い鋼になりますから、切れ味は鋭いです。
 しかし、内部にやわらかい鋼が入っているので、全体としては折れにくいというわけです。
 内部の鋼を「心金(しんがね)」、外側の鋼を「皮金(かわがね)」といいます。

【 皮金 】
 皮金にするのは「玉鋼」です。
〇.水へし  :まず玉鋼を熱したあと、かなづちで5~6ミリぐらいに薄く打ち延ばし、水をかけます。すると不純物を多く含んだ部分がはがれ落ちます。これを「水へし」といいます。
〇.積み沸かし:炭素含有量の異なる何種類かの鋼を短冊型にし、それを積み重ねて熱し、叩いて鍛えます。薄くなったら折り曲げて再度叩き、薄くなったら今度は先ほどと
直角の方向に折り曲げて、再び叩きます。この操作を十数回繰り返します。

【 造り込み 】
 日本刀の形にする工程です。
 炭素含有量の多い皮金を広げ、その上に炭素含有量の少ない心金を置き、皮金で包みます。
 これを熱して叩き、日本刀の形に仕上げていきます。

【 焼き入れ 】
 形のできた刀に焼き入れをして硬くします。
 しかし、このとき、刀全体に焼きが入ると刀が硬く、もろくなります。
 そのための操作が「土置き」です。
 焼きを入れたくない部分に、砥石の粉でできた土をおきます。
 こうすると、焼きを入れるときに土のついていない部分は急冷されて焼きが入りますが、土をつけた部分は徐々に冷やされますので、焼きは入りません。
 土を置いた刀を炉に入れ、真っ赤に熱したあと、一気に水につけます。
 ジューという音とともに湯が弾け、湯気が立ち----刀づくりでおなじみの光景です。
 このときマンテサイト相ができるので、製品の形が変形するのは先に見たとおりです。
 日本刀の反りはこのときにできるのです。

【 仕上げ 】
 刀匠は形を整える程度に刀を研ぎ、あとの工程は専門の研ぎ師にまかせます。
 日本刀は研がれたあと、いろいろな備品をつけられて完成した日本刀になります。




 近代製鋼法の鋼に価格競争で負け、「たたら吹き」は壊滅しました。
 しかし、市販の鋼ではよい日本刀をつくることはできないとの刀工の要望により、年に数回だけ操業しています。
 製品の供給は日本美術刀剣保存協会が一手に握っており、一般人が手に入れることは不可能です。
 一般人が手に入れることのできるのは、日立金属安来工場で生産するヤスキハガネです。
 白紙、青紙、銀紙の3種類がありますが、白紙が最も古来の製法に近い方法でつくられたものです。




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