2009年4月1日水曜日

:夜明けに向かって


● 1992/10[1992/09]



 1980年代後半に工業製品のなかでもっとも付加価値が高かったのは、人工衛星、スーパーコンピュータ、航空機エンジン、ジェット機だったが、どれをとっても日本が先頭に立っているものはない。
 1990年代に登場した最新のバイオテクノロジーの領域でも日本は強くない。
 アメリカに数年遅れている。
 とくに薬品・薬剤の分野では、日本の企業ははヨーロッパにもはるかに引き離されている。

 日本が強力なのは、「
中程度」の付加価値をもつマス・マーケットを対象としたテクノロジーである。
 ビデオカメラ、半導体、高品位カラーテレビ、コンピュータ・デイスプレイ、半導体製造装置、コンピュータ制御工作機などで、1980年代からはそれに高級自動車が加わった。

 先にあげた分野の多くでも、日本は2番目か3番目の地位を占めるに過ぎず、高付加価値の分野では、先頭に大きく水をあけられている。
 まさに決定的だったのは、日本がソフトウエア開発の面で二歩も三歩も遅れていることだ。
 日本はせいぜいのところ「第2位」でしかないのである。

 さらに注目すべき点がある。
 これまで日本が強かった業界にも、台湾、韓国といったアジアの国々からしだいに新たな供給源が出現していることである。
 新製品が大量に発売されるたびに、それがすぐさまアジアで模倣される。
 すると、日本が技術革新で得られる利益が限られてくる。
 すぐ競争がはじまって、価格を押し下げる結果になる。

 アメリカやECと較べたとき、日本の強みは「
どこに」あるのか。
 技術全般に関して他国をリードしているということだろうか。
 そうではない。
 そもそも日本はそんな地位についてはいない。

 技術革新でないとしたら、いったい日本の産業の強みは何なのだろう?。
 その答えとして、まず日本の製品や工程で使われている技術レベルが「平均して高い」という事実をあげなければならない。
 言いかえると、最新のテクノロジーを吸収して応用できる企業が、広い範囲にわたって存在し、そうした企業がさまざまな産業で、生産性を改善してきたのである。

 日本の教育レベルは世界最高ではない。
 しかし、教育の平均的なレベルで考えると、日本は世界でいちばん強い。
 日本が技術面でリーダーシップを握ろうとするのは誤りである。
 それよりも、日本は技術の平均的なレベルを着実に引き上げることに力をいれるべきだろう。
 企業では、それが研究開発の目標になる。

 日本では、消費、借金、貯蓄のパターンが少しずつ変化しつつある。
 だからといって、経済全体が、良くなるわけでもなく、悪くなるわけでもない。
 ただ、変わるだけである。

 何であれ経済変数をある程度確実に予測することは「不可能」で3あるし、貯蓄率もその例外ではない。
 ただし、かなりの精度で予測できるものに一つに「人口統計」がある。
 出生率の変化による影響が労働力におよぶまでには、ざっと20年はかかる。
 65歳以上の人間が全人口に占める割合は
 1995年には14%、
 2000年には16.2%、
 2005年には18%、そしてピークを迎える
 2020年には23.5%になるという。

 こうした数値を見ていて最初に気づくのは、高齢化はかなり長期間にわたる現象だということである。
 高齢化は日本経済の動向を決めるうえで、きわめて重要な役割を果たす、と思われる。
 老齢人口の増加によって、国全体の貯蓄率は大きく下がるだろう。
 国全体の貯蓄率が低下すると、21世紀に入ってからも日本の経常収支が黒字で、多額の資本を輸出しているとは考えにくい。

 ここで銘記しておくべき重要なポイントは、老齢人口それ自体が、繁栄を脅かすわけではない、ということである。
 引き起こされる変化とは、「
労働力とその活用方法」である。
 労働力として毎年新しく加わる人口が減るにつれて、日本の労働者の平均年齢は上がっていくだろう。
 この現象は、いくつかの点で影響をおよぼす。
 第一に、雇用者側は給与の年功序列制度を習性する必要に迫られるだろう。
 さもないと労働力のコストがうなぎ上りになってしまう。
 第二に、雇用者は労働力に代る資本(つまり機械化)の導入に力を入れることになる。
 そして最後に、労働供給の境界にいる人たちの力が大きくなるだろう。
 それは多くの場合、女性である。

 労働力の不足は、日本人にとって「
非常に喜ばしい現象」だということを認識しなければならない。
 労動力不足は、失業率が低くて、職を求める人に大きな選択の幅が与えられることを意味する。
 心配しなければならないのは、労働力過剰になって失業が増え、賃金が低下することなのである。

 人手不足が問題なのは、日本人というよりは、むしろ日本の企業のほうだろう。
 日本の企業は労力を節約するための投資をしなければならないのだ。
 それに反して、アメリカは移民と高い失業率のおかげで、労働力にはこと欠かず、「
省力化投資」をする必要はない。

 概して、労働力の不足はそれほど重要な問題ではない
 それは繁栄の産物であって、経済的な困難の原因ではないからだ。
 経済が停滞して出業が増えれば、人手不測は自動的に解消されるだろう。
 労働力の不足は、経済の拡大を抑制する。
 それだけのことである。






【忘れぬように、書きとめて:: 2009目次】



_