2009年4月16日木曜日

:矢沢永吉「アー・ユー・パッピー?」


● 2008/03[****]



 さて、「本と誠」の記念すべき第1回でとりあげるのは---。
 「
アー・ユー・パッピー?
 きら星の如くスターひしめく芸能界で、ひときは眩しく輝く「超一等星」、矢沢永吉の著書である。



 これをタレント本として語ることすらおこがましい。
 なにしろ出版2カ月で早くも30万部を超えるセールスを記録。
 矢沢信者にとってはまさに経典であり、ファンにとっては矢沢の神々しい語り口に、自分で旋律を伴奏すべき矢沢の新作アルバムの一つであるだろう。

 しかし、この本は矢沢ファンでない人にとっても、読後に「アイ・アム・ハッピー!」と、その面白さを呟ける「
”ボス”・オブ・タレント本」である。 
 なにしろ前作、矢沢永吉激論集「
成りあがり」の出版は、今から20年以上の前のこと。
 今なを絶版されることもなく、若者のバイブルとして読み継がれ、延べ100万部を超えるロングセラーなのである。
 そして今回、人生で2作目の出版が本書。
 驚くべし、「
20年にたった2冊!

 まったく、執筆ペースも永ちゃん流の”時間よ止まれ!”なのである。
 著書を「本業」にしないのにもかかわらず、職業作家よりも圧倒的に売り上げ、絶対的影響力を与える、
その威力
 これぞ、タレント本の極みである。

 序章に「膨大で払いきれない有名税」と書いたが、「ハッピー?」は没頭から、98年に発覚し、世間をアッと驚かせ、詐欺事件としては「オーストラリアの犯罪史上2番目の大きさ」である、30億円横領詐欺(最終的には35億円)の顛末から語られる。
 これこそ前代未聞の”有名税”である。
 「好事魔多し」のたとえ通り、新たな拠点のためにオーストラリアにスタジオや音楽学校用の26階建ての高層ビルを建てるべく投資した資金を、信頼していた部下2名の”共犯者”によって「詐欺、横領、公文書偽造、私文書偽造、
詐欺件数 73件」もの大犯罪を仕掛けられ、10年にわたって30億円もの大金を騙し取られた。

 当初、この横領被害報道に対し取引銀行は慌てて、「血相を変えて取り立てに来た」とのこと。
 それに対して、
矢沢は言った
 <注:何と言ったかは、本を買って読んでください>
 まさに”キザな野郎”である。
 なんと、ケツをまくることなく、30億もの負債を、自分でケツを拭こうというのである。

 矢沢は偉大なる時代の先駆者であり、ロックの経済革命家、つまり、多くの人が学ぶべき”金持ち父さん”である。

 さて最後に税務調査的に言えば、この本は明らかに”過少申告”なのである。
 と、言えば、30億円のサギの額のことと思うでしょう?
 「ノー、ノー!」、そんなことじゃない。
 矢沢の輝ける栄光について矢沢自身が”過少申告”なのだ。

 本のデフレ化が進む中、この一行を読むだけでも、単行本の定価1,300円はお釣りがくる。
 なぜなら、この本代は、「成りあがり」の矢沢に「ぶらさがり」で過ごしてきた、我々、国民が、矢沢の支払い続けてきた数々の有名税に対して、感謝を込めて還付すべき、お金なのだから。
(2001年8月号より)

 その後、矢沢永吉氏は、本書文庫版で、約束通りファンに対し、この横領事件の裁判の結審を報告。
 そして2004年、長年住み慣れたロスから帰国し、35億の借金を7年で完済したことを発表。
 それどころか赤坂に総工費15億円の”音楽御殿”を建ててみせ、”リベンジという気持ちがなかったと言えばウソになる。ここから新しい音楽を生み出したい”と発言。
 
見事すぎる、”ハッピーエンド”を決めてみせた。





 裁判には3人の通訳がつく。
 矢沢側の通訳、被告側の通訳、そして両者の中にたって公正にして中立な裁判所が選ぶ公式の通訳。
 友だちがそれをやった。
 もちろん日本人。
 超一等星、矢沢永吉の裁判の公式通訳!

 ”友だち”?
 どの程度の?
 知り合いの知り合い?
 小学校の同級生、6年も同じ教室で苦楽をともにした。
 私はシルバーコロンビア計画による「日本は老人も輸出するのか」騒ぎで、移民法が変わる直前のドサクサをつかまえて、運よく書類提出だけでこの大陸にもぐり込んだ。
 が、彼は大学卒業後、アメリカへ行き国籍を取得し、その後の天文学的に締め付けの厳しくなったここの永住権を何と”エグゼクテイブ・クラス”でゲットした。
 「裁判はどうだった」
 「裁判所の書類にサインしているから、喋れない」
 ウン。
 その後、スッポリと矢沢の裁判のことは忘れていた。
 この本を読んで、「そうだな、そんなこともあったな」、と想いだした。

 裁判の秘守義務の期間はもう過ぎたようだ。
 といっても、お金持ちの世界。
 聞いてもしかたがない。
 ただ、ジェラシーを感じるだけかも。
 聞かないで済ませようかな。
 なにしろ30億円。
 掴みどころのないお金の額。

 私は「成りあがり」の矢沢に「ぶらさがり」で過ごしてきたわけではない。
 よって、1,300円の本は読んでいない、もちろん前作も。
 そのうち、古本コーナーに出てきたら、1ドル50でゲットしよう。



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