2009年7月19日日曜日

:葛飾北斎「幻想世界」


● 2008/07[2008/04]



 86歳の北斎が、上方の山田意斎(1788--1846)と組んで手がけた読本「釈迦御一代図絵」は、彼のおびただしい挿絵の中でもとりわけて力強い幻想性を発揮したもの。
 見開きを縦に用いた雄渾な構図が多いが、その描写はどこまでも繊細で、あいまいな線が一本もないほど完成されている。
 北斎の才能が際立つ、その「釈迦御一代図絵」をここでとりあげよう。









 北斎描く執念の女の首。
 図14は柳亭種彦(1783--1842)作の読本「霜夜星」の中の一場面だ。
 手で刀を押さえて喰らいつく姿はすさまじい。



 図18は種彦と組んだ読本「勢田橋竜女本地」の一図。
 ビアズレーの「サロメ」の挿絵(1894 図19)を連想させて印象的だ。
 二度刷りの手法を生かして複雑な幻想的情景を見事に表している。




 北斎なしでは幽霊画の世界は成り立たない。
 図35はその真骨頂ともいうべき読本「恋夢のうきはし」である。



 夜八・お丑夫婦が、昔殺した座頭淡都(あわい)の亡霊に復習されるところ。
 墨でつぶした真っ暗闇の中に、洋風の陰影を薄墨で施した奇怪な顔が、蟹の爪のような手の磁力でお丑を引き寄せる。
 何も気づかずに眠りこける夫。
 腰紐は蛇となり、皿はケタケタと笑う。

 これに劣らず戦慄的なのは、図36の一図。



 「霜夜星」のお沢の幽霊が鎌倉で災いをなす場面である。
 夫に虐げられて入水自殺した醜女お沢の亡霊パワーが、夫を亡き者にしたのちもなを収まらず、通行人を悩ましているところである。
 これと不思議によく似た恐ろしい顔のクローズアップが、大友克洋の「AKIRA」PART4に出てくる。




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