2009年7月9日木曜日

:賞味期限切れ百貨店


● 2008/07[2008/05]



上野:
 もう一度、百貨店の歴史を長いタイムスパンで社会史的に捉えてみようと思うんです。
 ユニクロが価格破壊できた原因は、グローバリゼーション、つまり生産拠点の海外移転です。
 内需拡大が所得の分配につながるという日本の「成長経済メカニズム」は、1990年代に完全に崩れました。
 内需が拡大しても、雇用の拡大にはつながらない。
 ユニクロがどんなに売れても、それが日本の市場における再分配につながりません。
 いま景気は持ち直していますが、ヨーロッパ型の「雇用拡大なき景気回復」です。
 「無印」もかなり国外生産していますね?
辻井:
 やっています。
上野:
 でないと、あの価格は維持できませんね。
辻井:
 ええ、半分以上は国外生産です。

上野:
 百貨店は今後、どうなるでしょうか?
辻井:
 中身が細ってきますね。
 そうすると百貨店は「場所貸し業」になるわけです。
上野:
 パルコ化ですね。
辻井:
 いまのパルコが持っているようなプロデュース能力は、どの百貨店にもありません。

辻井:
 けれども、専門店に近寄るだけの専門能力はない。
 なぜないかというと、百貨店はリスクを背負わない。
 売れ残ったら、問屋さんに返品すればいい業態ですから。
上野:
 末期症状じゃないですか。
辻井:
 形は残っていても、独立した小売業者としての中身はどんどん存在理由が希薄になっています。
 場所貸し業以外の何物でもない。
 末期症状の段階に入っていると思いますよ。
上野:
 結果としてコンビニとスーパーが残るということですね。
辻井:
 はい、そうです。
上野:
 コンビニは家族経営という、とても日本的な展開をしましたから、これはこれで残るだろうと。

上野:
 いまはすでに百貨店という業態が、歴史的な氏名を終えてしまっていると思っておられます?
辻井:
 ほぼ、終えたなあ、という感じです。
 百貨店という業態は、人間が人間らしく生きるために絶対必要不可欠なもの、と私は思っていませんから。
上野:
 百貨店の歴史的な賞味期限が切れたと、思われたのはいつですか。
辻井:
 どんなに譲歩しても、20世紀まで。
 ここで百貨店復活論をいくら言っても、虚しい響きしか出てこないんじゃないでしょうか。
 それはどんなに編集に知恵を出しても、総合雑誌の部数が増えないのと同じことではないでしょうか。






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