2009年7月19日日曜日
:遠近法と叙情
● 2008/07[2008/04]
『
山東京伝・勝川春亭の合巻「風流伽三味線」には遠近法の絵(図98)がある。
橋の下に遠景を望む構図が秀逸だが、これは橋の下に遠く富士山を望む北斎の浮世絵「たかばしのふじ」の影響だ。
図99は、北斎の遠近法。
寛政初年ごろから、西洋銅版画の影響を受け、洋風表現を試みた北斎は、挿絵にもその手法を導入している。
馬琴と組んだこの読本「青砥藤綱模稜案」では、遊郭の廊下を完全な遠近法で描いている。
西洋の透視図法に基づいて精密に感覚を表現し、奥行きのある空間が見事に描かれている。
北斎は叙情の世界とも無縁でなかった。
馬琴の読本「墨田川梅柳新書」の図72は、平行盛の壇ノ浦での討ち死にの悲報を聞いて、京に留守居する愛妾の初花が’大沢池に身を投げ後を追う場面。
乳母が引き止める手は空しく打ち掛けのみを掴み、女は身を翻して水中に沈む。
外れ落ちる櫛や懐紙。
飛び立つ水鳥とその水跡。
やわらかい曲線の反復で画面がまとめられ、悲劇に優美さを与えている。
最後に、情緒ゆたかな口絵の傑作を紹介して終わろう。
図100は、馬琴の読本「山七全伝南かの夢」から
秋草をバックにして、大きくくりぬかれた軍配形の画面の中は墨つぶしの暗闇、ボカシでうっすらと浮き上がった地面には訳ありの男女の芸人。
女は三勝(さんかつ)で、笠も目深になぎ節(投節ともいう)の門付で日銭を稼ぐ。
左は紙の面をかぶり「とぞ申ける」と唄って同じあたりを流す平三。
実は二人は養父とその娘で、泊まる宿も隣り合わせなのだが、互いに気づかない、という設定。
胡弓(本文では三味線)の音が夜の闇に響き、つきまとう野良犬も雰囲気を助けている。
』
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