2009年7月24日金曜日

:そのとき、家族は


● 1991/09



渡辺諄一
 日本で脳死が受け入れられるためには、いま何がもっとも必要だとお考えですか。
秋山暢夫(東大医科研付属病院前病院長)
 もう受け入れられていると私は思いますよ。
渡辺
 脳死がですか?
秋山
 現に救急の現場などでは日常的に脳死判定が行われて、ご家族の了解の下で(脳死者の)人工呼吸器が止められているわけですから。
渡辺
 でも、そうした医療現場で「まだ心臓が動いている。なんとか助けてほしい」と訴える家族もいると思うのです。
 彼らは果たして脳死を認めているだろうか。
秋山
 肉親の脳死を宣告されて、ご家族が取り乱すのは、必ずしも「脳死を認めていない」からではないんです。
 むしろ「ダメだと」いうことがわかって感情のコントロールができなくなる。
 これは一般の心臓病でも同じですよ。

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渡辺諄一
 ところで、先生の病院で脳死患者の発生数は?
大塚敏文(日本医科大学付属病院長)
 昨年1年間で94例。
 もちろん脳死と判定されて生き返った例は一例もありません。
渡辺
 専門家が診れば、脳死の判定というのは、はっきりつくと。
大塚
 それほど難しいことじゃないんです。
 私にいわせれば、脳死患者は「人工呼吸器をつけた死体」です。
渡辺
 先生のような救急医療の専門家は、患者の家族に対して脳死をどう説明されますか。
大塚
 私は曖昧な言い方はしません。
 「残念ですが、脳死状態になりました。脳死というのは絶対に元に戻ることはございません。早くて2~3日後から1週間ぐらいで心臓が止まります」と。
渡辺
 そういわれても、まだ現実に脈拍はあるし、肌も温かい。
 脳死なんか絶対納得できないという家族も----。
大塚
 いますよ、それは。
 「心臓が動いている時はまだ生きているんです!」
 と、泣き叫ぶあれば、
 「もしかしたら----」
 という希望にすがる家族もいます。
渡辺
 どの家族も「限りなく可能性に近い夢」をみながら、最後は現実を受け入れざるを得なくなる。
大塚
 その家庭に4つの心理段階があります。
 第1段階は「驚愕期」といって、大半尾家族は半狂乱になります。
 その状態のあとに「混乱期」がきて、「もしかしたら」という期待と、「この人がいなくなったらどうしよう」という絶望感との間で、非常に情緒不安定になるんです。
渡辺
 脳死と宣告されても、まだ受け入れない時期ですね。
大塚
 それがすぎますと、少し様子が落ち着いてきて、患者の体に障ったりしながら気持ちを整理する。
 この「検討期」から1日か2日後に第4段階の「受容期」、つまり脳死を死と認める自記が訪れて、「覚悟はできています」と。
渡辺
 じゃ、家族が身内の脳死を受け入れるまでに----。
大塚
 早くても4日、普通は6~7日かかります。







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